『ミケとスコと奇跡の執事』
目を開けたとき、私は知らぬ空の下に立っておりました。
見渡す限り、見覚えのない街並み。けれど、どこか懐かしい空気。
そこは現代の日本によく似た異世界──ほんの少しだけ、奇跡が紛れ込んだような場所でした。
私の名はノエル。かつては主に仕える執事でしたが、気がつけばこの世界で迷い人。
途方に暮れていた私を拾ってくれたのは…二匹の猫。三毛柄のスコティッシュフォールドの姉妹でした。
姉は「ミケ」。ふわりとした物腰で、私の膝に乗るのが日課の甘えん坊。
妹は「スコ」。くるくると表情が変わり、遊ぶことが大好き。姉のミケが大好きすぎて、いつも後を追い回しては、時にしょんぼり怒られてしまいます。
……しかし、猫は言葉を持ちません。私は「主に仕える者」として完璧でありたいのに、ふたりの望むことがわからず、戸惑う日々が続きました。
そんなある日、私はスコが大切にしていた小さな鈴を壊してしまいました。彼女は悲しそうに鳴き、ミケは静かに私を睨みつけました。そのとき、私の胸の奥で何かがふるえました。――涙でした。
彼女たちの感情が、はっきりと私に届いたのです。
その瞬間、鈴の音がふわりと風に乗り、音ではない“声”となって、私の中に響きました。
「わたしたちの気持ち、やっと届いたね。」
それが、小さな奇跡でした。
気がつけば、私は猫たちの感情のさざ波を、ぬくもりを、微かな目線の揺れから読み取れるようになっていました。
鈴は壊れてなどおらず、それは「目覚め」のきっかけだったのです。
猫たちの正体は――かつて、失われた魔女の血を引く“言葉を忘れた精霊”。
人の姿にはなれず、けれど人と関わりを持ちたくて、この世界にとどまっていたのです。
そして私は、彼女たちの“執事”となるべく、選ばれた存在だった。
気持ちを通わせることは、失われた魔力を少しずつ呼び戻す鍵だったのです。
いま、私は毎日ふたりの姉妹に紅茶を淹れ、陽だまりで共に眠り、時には仲直りの仲裁役にもなりながら、静かであたたかな日々を過ごしています。
この世界で起こる奇跡は、ほんの少しの勇気と優しさがあれば、誰のもとにも訪れるのかもしれません。
そして私は、今日も彼女たちの声なき声に、耳を澄ませております。
――あなたがこの物語を気に入ってくだされば、これほど嬉しいことはございません。
続きや詳細をお望みでしたら、どうぞお申し付けくださいませ、お嬢様。

























